真性赤血球増加症(PV)

原因

真性赤血球増加症は骨髄増殖性腫瘍(MPN)の一種なので、造血幹細胞がクローン性に増加する。特に赤芽球系の細胞が強く増殖し、血液検査で赤血球の著しい増加が見られる。ちなみにだが白血球と血小板も少し増加する。 特に造血幹細胞のクローン性増殖に起因しているという点が重要であり、他の原因で赤血球が増える疾患は真性とは呼ばず、区別して考える。その鑑別が非常に重要だ。

症状

まず、末梢血検査では当然赤血球ヘモグロビンは高くなる。そして、赤血球の著しい増加は血液をドロドロにする。その結果循環不全が生じ、頭痛やめまい、血栓症などが見られる。そして、血液が濃いので顔の紅潮といった形で外見にも変化が見られる。また増えた赤血球は脾臓で処理される。そうすると脾機能亢進となり、結果脾腫も生じる。基本的に赤血球が増えるということをきっかけに血流の異常や脾臓の異常が症状として現れる、と考えておけばよい。

JAK2遺伝子変異

忘れてはいけないのがJAK2遺伝子変異だ。真性赤血球増加症においては、実に95%以上の症例で(+)となる。まずはJAK2とはそもそも何かという話だ。これは赤血球が作られる上で必須のタンパク質である(もっと正確に言えばチロシンキナーゼ)。こいつは造血幹細胞の上にサイトカインレセプターと一緒に存在する。そしてそのレセプター(具体例を挙げるならエリスロポエチンレセプター)にサイトカイン(例えばエリスロポエチン)が結合すると、JAK2が活性化し、細胞増殖シグナルが送られる。その結果、造血幹細胞が増え、赤血球が増えていく。真性赤血球増加症では、遺伝子変異により、JAK2がなんの刺激も受けていないのに勝手に活性化する。その結果、サイトカインの有無にかかわらず、造血幹細胞が増殖し続け、赤血球をはじめとする血球が増加する。

JAK2は赤血球そのものを増やすのではなく造血幹細胞を増殖させるため、赤血球以外の血球も増加する。そして血小板が強く増えるようであれば本態性血小板血症という診断になるかもしれない。または、巨核芽球の増殖が線維芽細胞の増殖に繋がり、骨髄の線維化が進めば骨髄線維症と診断されるかもしれない。JAK2遺伝子変異が陽性になりやすい3疾患として覚えておこう。

そして、PVの治療薬の一つであるルキソリチニブという薬剤は、このJAK2の働きを阻害する。JAK2を阻害すれば症状が改善しそうだというのはお分かりいただけると思う。より正確に言うならJAK2そのものを阻害しているわけではなく、下流経路を遮断している。具体名を出してしまうと転写因子であるSTAT5だ(さすがに覚えなくていいよね?)。

鑑別診断

そして最後は鑑別だ。造血幹細胞の増殖によらない赤血球数の増加を学んでいこう。そもそも、末梢血検査における赤血球数とは数ではない。1μLあたりの個数を表しているので濃度だ。濃度が上昇している原因は二つ考えられる。分子が上がる分母が下がるかだ。ここでいう分子とは赤血球の量、分母とは血中の水分量だ。このうち分子が上がるものを絶対的、分母が下がるものを相対的と呼んでいる。

赤血球増加症の分類

そして絶対的、相対的の中でさらに二つに分かれる。ここまで見てきたように真性赤血球増加症絶対的赤血球増加症に分類される。明らかに赤血球細胞が増えてるからね。絶対的なやつもう一種類が、二次性赤血球増加症だ。何らかの基礎疾患を持っていて、それによって赤血球が増加するケースがこれにあたる。そして二次性の場合、エリスロポエチンが過剰生産される(一方で真性の方はJAK2が原因であり、エリスロポエチンの有無に影響を受けない)。そしてエリスロポエチンが増える原因は低酸素エリスロポエチン産生腫瘍だ。しっかり覚えておこう。

では相対的に赤血球数が増加する疾患とはなんだろうか。脱水がまず一つである。脱水は明らかに血漿の量が減り、見かけ上赤血球が増えることになる。もう一つはストレス赤血球増加症だ。まだまだよくわかってない疾患のようなので、ストレス赤血球増加症では、実際の赤血球の量は増えていない、ということだけしっかり覚えておこう。

相対的赤血球増加症には、脱水によるものと、ストレスによるものに分類される。