骨髄増殖性腫瘍(MPN)の全体像

骨髄増殖性腫瘍はMPNとも呼ばれる、造血幹細胞がクローン性に増殖する疾患である。基本的に血液中の細胞は造血幹細胞由来となっている。造血幹細胞がクローン性に増殖するということは、全ての血球に異常な増殖が見られる可能性がある、ということになる。そしてMPNは、特に強く上昇が見られる血球の種類に応じて違う疾患名がつく。例えば、顆粒球系が目立って増殖すれば慢性骨髄性白血病(CML)だし、赤血球系であれば真性赤血球増加症(PV)、血小板であれば本態性血小板血症だ。ちなみに顆粒球とは好酸球+好中球+好塩基球のことで、顆粒とは殺細胞性の成分のことである。

そして、それぞれのMPNについて他の疾患との鑑別が重要になる。例として真性赤血球増加症を見てみよう。この疾患では、血液中の 赤血球が著名に増加する疾患である。しかし、赤血球が増加する疾患は他にもある。外的刺激によってエリスロポエチン産生が刺激される二次性赤血球増加症と脱水やストレスで見かけ上赤血球が上昇する相対的赤血球増加症がそうだ。これらの鑑別が重要となる。

ちなみに骨髄の細胞が腫瘍性に増殖する疾患として、急性白血病が思いつく人も多いと思う。MPNも急性白血病も骨髄細胞の腫瘍性増殖という点に目を向ければ同一の疾患だ。しかし、基本的にはMPNと急性白血病は別の疾患として考える。MPNは、特に慢性の経過を辿る疾患と定義されているようで、生じる異常造血幹細胞は分化能を有しているし、そこから生じる末梢血の血球も形態学的には正常である。急性白血病では白血病細胞が分化能を失い、白血球裂孔が見られるし、芽球という明らかに異常な細胞が末梢血に出現する。こうした点で、MPNと急性白血病は明白に区別されることになっている。ただし、MPNの一種である慢性骨髄性白血病は、放っておくと急性転化し、急性白血病と同様の病態を呈することになる。

今回は、増殖の主体となる血中細胞と疾患名の対応表を提示して終了とする。全て重要な疾患である。

顆粒球 慢性骨髄性白血病
赤血球 真性赤血球増加症
血小板 本態性血小板血症
線維芽細胞 骨髄線維症

補足

ここで一つ補足しおきたい、MPNは造血幹細胞の増殖が原因であると述べた。これはちょっと正確ではない。造血幹細胞というとリンパ球を含むすべての血球に分化することのできる細胞を思いかべるかもしれないからだ。MPNで異常増殖をきたす細胞は、かなり未分化な形態ではあるものの、リンパ球系の細胞とは既に袂を分かっている。造血幹細胞は第一にリンパ系の前駆細胞とそれ以外の細胞の2つの形態に分化する。このそれ以外の細胞というのが骨髄系細胞と呼ばれる、MPNの原因細胞になってしまう細胞である。

骨髄性リンパ性というのは相反する単語なのでMPNというのはリンパ球とは無関係な疾患である、と言えるだろう。