鉄芽球性貧血
TL;DR
・鉄は足りてるんだけど使えてない
・鉄過剰症は怖い
・ビタミンB6が効く...かも?
・血清鉄↑、貯蔵鉄↑、UIBC↓
原因
まずそもそも鉄芽球ってなにもの?っていうところから始まる。鉄芽球というのは赤芽球の一種だと思ってもらえればよい。赤芽球がおかしくなっちゃったのが鉄芽球だ。
赤芽球のミッションとして重要なものにヘモグロビンの合成がある。ここでヘモグロビンが合成されるからこそ赤血球になったときに酸素を運搬することができる。ヘモグロビンを作るということはヘムとグロビンを作るということであり、ヘムには鉄が含まれているから、当然鉄が必須になる。鉄芽球は、細胞内で鉄をうまく利用できないときに現れる血球だ。鉄欠乏性貧血と違って、鉄はあるけど使えない、そうするとヘモグロビンがないから酸素を運べなくて貧血になる、という流れだ。そして、ヘモグロビンの合成に使うことができなかった鉄は沈着する。特に核の周りに、環状に鉄顆粒の沈着がみられるから鉄芽球や環状鉄芽球と呼ばれるのだ。
治療
原因がわかったら、治療について考えてみよう。当然だが鉄剤の投与はダメだ。ここが鉄欠乏性貧血との鑑別を要する原因でもある。鉄自体は足りている、でも使えない、というのが鉄芽球性貧血の状態なのだから、鉄剤の投与は効果がないし、鉄過剰症のリスクを考えるとやってはいけない。同様の理由により、輸血もあまりしたくない、症状が重すぎる時にどうしてもせざるを得なくなる可能性はあるが、最小限にすべきだ。(慢性的な貧血に対する輸血後の鉄過剰症は合併症としてよく知られており、抑えておくべき知識である。)
じゃあどうすんのってなるが、ここは結構難しい。まず鉄芽球性貧血は何らかの化学物質が原因となって発生していることが多い。アルコールの中毒だったり、イソジアニドやサイクロセリンとかの薬物中毒が原因になりうる。まずはこうした化学物質に晒されていないか?晒されているのであればそこを止めにいくと回復するケースもある。お薬を出すのはそれからだ。
薬剤として効果があるのはビタミンB6で、またの名をピリドキシンという。ビタミンB6はヘムの合成の初期段階に必須な物質なので、ここを補うことによって、回復することもある。効かないこともある。
薬も効かない、症状が重い、なんとかしなきゃいけない、となったらもう輸血するしかない。鉄過剰症は怖いから最小限にする必要があるが背に腹は変えられぬ。
ビタミンB6(ピリドキシン)が効かない
薬物としてビタミンB6が有効だという話をした。賢い人は気付くと思うが、鉄芽球性貧血はヘム合成経路のどこに異常があるか?が非常に重要になってくる。当然、ビタミンB6が関わらない部分に異常がある場合はピリドキシンが効かない。当たり前だ。そういうケースはよくあることで、MDS(骨髄異形成症候群)に伴う鉄芽球性貧血の場合はピリドキシンは無効となる。この場合はMDSの方を治療しにいかなければならない。さらに言えば、後天性の鉄芽球性貧血の原因として最多なのがMDSだ。ビタミンB6全然だめじゃん。
鉄過剰症に対する対症療法
鉄芽球性貧血の大きな問題点の一つは鉄過剰症になってしまうことだ。この鉄過剰症に対してはキレート剤の投与が有効である。鉄キレート剤によって鉄の排出を促せば、根本的な治療にはならないが対症療法にはなる。
ACD(慢性疾患に伴う貧血)との違い
鉄芽球性貧血では、鉄の利用障害により鉄が体内に蓄積する。同様に体内に鉄が蓄積する疾患としてはACDが挙げられる。ではこの2つの疾患の違いを考えてみよう。どちらも鉄に関する障害が起きているために貧血を疾患であるが、どこの異常か?が異なる。鉄芽球性貧血は赤芽球内で異常が起きており、鉄を利用できない。そのため、血清鉄、貯蔵鉄が両方上昇する。そしてトランスフェリンは全身に鉄が溢れているから産生が抑制される。するとUIBCは当然低下する。
一方で、ACDは貯蔵鉄が血中に出てこれないことによって、ヘモグロビンが作れなくなる疾患である。そのため、血清鉄は減少し、貯蔵鉄は増加する。頑張って貯蔵鉄を運ぼうとするからトランスフェリン産生は亢進し、UIBCは上昇する。(考えていたらこう思ってしまったが大間違い)ACDの原因となるIL-6はトランスフェリンの産生は抑制する。そのためUIBCは低下する。ACDはヘプシジンによる貯蔵鉄の放出抑制と同時に、トランスフェリン産生の抑制も引き起こすのだ。こうした血中指標の違いは臨床上非常に重要である。
まとめると鉄芽球性貧血とACDの違いは血清鉄ということになる。
疾患 | 血清鉄 | 貯蔵鉄 | UIBC |
---|---|---|---|
鉄芽球性貧血 | 上がる | 上がる | 下がる |
ACD | 下がる | 上がる | 下がる |