巨赤芽球性貧血
TL;DR
まずは名前から
巨赤芽球性貧血、僕だけかもしれないが、この名前は覚えにくい。なんか頭に入ってこない。きちんと分解しておこう。分解すると言っても話は単純で赤芽球が巨大になる貧血、それが巨赤芽球性貧血だ。赤芽球の異常が一際目立つ疾患ということを抑えておく。
ちなみにこの病気、貧血と名乗ってはいるが、実は汎血球減少症でもある。つまり、白血球も血小板も減少するということだ。この名前詐欺をしている疾患がもう一つある。再生不良性貧血だ。再生不良性貧血は、造血幹細胞の障害によって、汎血球減少症をきたす。
原因
赤芽球が巨大になることを覚えたら次は原因だ。巨赤芽球性貧血の原因は栄養不足であり、原因となる栄養素を2つ覚えなくてはならない。ビタミンB12と葉酸だ。この2つがないと、DNAが合成できず、赤芽球が未熟なまま巨大化してしまう。(正直なんで巨大化?とは思う。)ちなみに、ここでビタミンB12だけを赤字にしたことには意味がある。メジャーなものはビタミンB12の不足による巨赤芽球性貧血だ。葉酸は原因になりうるということだけ覚えていればよいのではないだろうか。
次に考えるのは原因の原因だ。どうしてビタミンB12や葉酸が不足するのだろうか?これは消化器の障害が裏側に存在すると考えてもらって問題ない。ビタミンB12と葉酸の吸収経路は異なるから、当然原因となる消化器の障害も異なる。
栄養素 | 吸収経路 |
---|---|
ビタミンB12 | 胃の壁細胞から分泌される内因子と結合し回腸で吸収される |
葉酸 | 小腸全般から吸収される |
まずはメジャーではない方からみていこう。葉酸は小腸で吸収されているから、小腸での吸収が不可能になるような疾患で不足してくる。具体的には、小腸切除後や吸収不良症候群、blind loop症候群などで葉酸が不足する。
これと好対照なのがビタミンB12で、吸収の過程に胃の壁細胞由来の内因子が必須となっている、そのため胃が原因でビタミンB12が不足し、巨赤芽球性貧血となることがよくある。そして、抑えておくべき疾患は2つある。自己免疫性萎縮性胃炎と胃全摘だ。
自己免疫性萎縮性胃炎。クッソ長い名前だが、これはちょっと珍しいタイプの病気だ。普通胃炎と言えばピロリ菌の感染が原因だが、この疾患はその名の通り、自己免疫的な機序で胃の壁細胞が減少する。するとビタミンB12の吸収に必須である内因子が欠乏する。そのため巨赤芽球性貧血を合併するケースが多い。この自己免疫性萎縮性胃炎から生じる巨赤芽球性貧血には特殊な名前があたえられている。それが悪性貧血だ。どういう経緯でこの名前がついたか知らないが、名前から何の情報も伝わってこない。ふーん、悪いんだなー、くらい。ついでに言うと、僕の中では長い間再生不良性貧血とごっちゃになっていた。全然違う病気です。余談だが悪性貧血は自己免疫性なので、当然自己抗体がみつかる。抗壁細胞抗体と抗内因子抗体だ。
胃全摘は、もうなんかそのままである。胃がなくなるからビタミンB12を吸収できなくなる、それだけ。大事なポイントが一つだけあり、それは発症時期である。ビタミンB12は必須の栄養素であるが、必要量は極微量である。そのため、全摘を行なってから5~10年後に貧血を発症する。冒頭で10年前に胃全摘、ときたら巨赤芽球性貧血の問題である可能性はそれなりに高いと思う。
原因についてが長くなってしまったが、まとめると以下のようになる。
症状
症状とはちょって違うが、MCVが上昇するというのは忘れてはいけない。まあ名前からでかくなりそうなのは容易に想像がつくと思う。
そして巨赤芽球性貧血は症状が結構大事である。貧血って言ってるんだから貧血だけにしてくれよとも思うが。とりあえず貧血症状として息切れや易疲労感、心雑音なんかは抑えておこう。
そして貧血以外で特徴的な症状が2つある。Hunter舌炎と神経症状だ。Hunter舌炎は、その名の通り舌の炎症なのだが、灼熱感という形容詞がつく痛みを生じる。わかりやすく言うとめっちゃヒリヒリするってことになる。鉄欠乏性貧血でも舌炎をきたすのでそれと勘違いしないようにしよう。灼熱感や摂食時のしみる感覚といったキーワードはHunter舌炎を疑うきっかけになりうる。
そして神経症状だ。神経学でも頻出の内容だが、ビタミンB12の欠乏は神経症状をきたす。そしてここで大事なのは葉酸の欠乏では神経症状が現れないということだ。葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血は、頻度がマイナーなら症状もマイナーってことですね。
抗内因子抗体
- 悪性貧血で散見される
- 悪性貧血では自己免疫学的な機序により壁細胞が減少する