鉄欠乏性貧血
TL;DR
・鉄の絶対的な不足によって生じる貧血
・小球性貧血の約7割を占める
・若年女性に好発
・血清フェリチンが指標として重要
鉄の不足でなぜ貧血になるのか?
まずそもそも鉄の不足がどうして貧血につながるのだろうか?赤血球中のヘモグロビンには鉄が含まれているから。というのは大雑把な理解だ。まずは赤血球ができる過程から見ていこう。
以上が、造血幹細胞から赤血球ができるまでのおおまかな過程である。加えて重要なイベントが2つある。これを発生時期とともに抑えると貧血が理解できる。2つのイベントとは、DNAの合成とヘモグロビンの合成である。
イベント | タイミング |
---|---|
DNAの合成 | 赤芽球系前駆細胞が赤芽球になる時 |
ヘモグロビンの合成 | 赤芽球が成熟する時 |
上の表を見ると赤芽球が成長して赤血球となるためにはヘモグロビンの合成が必須であることがわかるはずだ。細かい話をするとヘモグロビンはヘムとグロビンからなるサブユニットが4つ集まってできている。そしてヘムは中央に2価の鉄イオンが配位したポルフィリン誘導体である。よってヘモグロビンの合成には鉄が必須。ひいては赤芽球の成熟にも鉄が欠かせないということになる。そういうわけで鉄の不足が貧血につながるのだ。
原因
鉄が不足すると貧血になることがわかった。次はどうして鉄が不足するのか?だ。鉄が不足する主な原因は出血である。体から血液が失われるということは、その中に含まれるヘモグロビンが失われる。するとそこに入っている鉄もなくなる。鉄が不足している裏側には出血傾向を示す基礎疾患が存在する、と考えてさしつかえない。
鉄欠乏性貧血は若年女性に好発するが、それは過多月経や子宮筋腫といった婦人科的な基礎疾患が存在するためだ。他に基礎疾患になりうるものとして重要なのは、消化管出血である。中年男性が鉄欠乏性貧血というような状況があれば、消化器系の腫瘍が原因の消化管出血を疑ってかかるべきだろう。
特徴的な症状
鉄欠乏性貧血の主な症状は当然貧血である。が、貧血症状以外にも抑えておかなければならない特徴的な臨床症状は結構多い。それらを順番に見ていこう。爪や粘膜に異常が生じているというのが重要だ。
- 異食症
- これは結構特徴的で、味覚がおかしくなって、泥や土、氷なんかを食べたくなるらしい。氷が食べたくなるというのはよくある所見なので注意。
- さじ状爪
- 爪がスプーンのようになる。真ん中が凹むって思っておけばよい。
- 嚥下障害
- 喉咽頭上皮が萎縮してしまうことによって生じるらしい
- 炎症症状
- ここで大事になってくるのが炎症が起きる場所である。舌炎と口角炎をしっかり覚えておこう。
ちなみに嚥下障害、舌炎、口角炎を合わせて、Plummer-Vinson症候群と呼ぶらしい。覚える意味ある?
舌炎は巨赤芽球貧血でも生じるが、そちらはHunter舌炎と呼び、明白に違うものなのできちんと区別しておこう。
鑑別
鑑別しなければならない疾患として慢性疾患に伴う貧血(ACD)がある。どちらも、ヘモグロビンが合成できないため、小球性低色素性貧血をきたす。鉄の絶対的な不足が原因となるのが鉄欠乏性貧血で、ACDは鉄の利用異常である。そのためACDでは体内の鉄の量は減少しない、むしろ増加する。そして、体内の鉄の量を何で確認するのかといえば、フェリチンだ。フェリチンが増えているか減っているかで鑑別すればよい。鉄欠乏性貧血では減る。
治療
鉄が不足しているんだから、当然鉄剤の経口投与が治療になる。大事なのは、輸血の適応は基本的にないということだ。そして治療の終了時期はフェリチンで判断する。自覚症状やヘモグロビンではない。貯蔵鉄の指標であるフェリチンが正常値になるまでやめてはいけない。