再生不良性貧血
TL;DR
・造血幹細胞の異常による汎血球減少症
・自己免疫により造血幹細胞が障害される
・重症例に対してはATGとシクロスポリンを併用する
・ごく稀に先天性であるケースがあり、Fanconi貧血と呼ばれる
病態
再生不良性貧血は造血幹細胞の異常によっておこる汎血球減少症である。貧血という名前がついているが汎血球減少症だ。つまり赤血球・白血球・血小板、3つの血球全てが減少する可能性を秘めている。そして造血幹細胞の異常であるために骨髄に影響が出る。骨髄の低形成は重要な所見であり、骨髄生検像がスッカスカになっていた場合、再生不良性貧血である可能性はそれなりに高い。(MDSである可能性は否定できない)
重症度分類
再生不良性貧血には重症度の分類が存在し、stage1からstage5に分けられる。重症かどうかで治療方針が変わってくるのでそれなりに大事なのだが、ぶっちゃけ細かい基準なんて覚えてらんない。そして重要なのは重症かどうか?という点のみだ。3血球全てが減少していたら重症と覚えておこう。問題に出るような典型的な再生不良性貧血の場合、大体重症だ。中等症以下というのは赤血球、白血球、血小板のうち2種類の減少にとどまる。貧血・白血球減少・出血傾向全て出そろった時点で重症だ。
治療
重症度分類を理解したら、治療を考えることができる。まずは軽症や中等症のケース。これはあんまり大事ではないかもしれない。軽い症状であれば蛋白同化ホルモン、単剤による免疫抑制療法が有効である。
重症の再生不良性貧血に対する治療は2つしか選択肢がない。造血幹細胞移植か強力な免疫抑制である。そして造血幹細胞移植というのは非常に負荷の高い治療であり、ドナーも必須となる。当然行うのは難しく、若くて(40歳以下)ドナーが見つかるケースでしか行えない。では40歳以上だったり、ドナーがいなかったりしたらどうすればよいだろうか。これはもう免疫を抑制しにかかるしかない。しかも本格的に。具体的には、ATG(抗胸腺細胞グロブリン)とシクロスポリンを併用した免疫抑制療法を行う事になる。
免疫抑制剤について
治療に用いられる免疫抑制剤としてATGと シクロスポリンがあるという話をした。こいつら何者?っていうのが次の疑問だ。シクロスポリンは結構有名で、免疫抑制剤の代表選手といっても差し支えないかもしれない。臓器移植の際の免疫抑制に用いられることが多く、ネフローゼ症候群やベーチェット病にも適応がある。なのでシクロスポリンに関しては問題ないと思う。一応作用機序を確認しておくと、カルシニューリンを阻害することによって、T細胞の活性化を抑制する。
そして問題は ATGだ。略さずに読むとanti-thymocyte globlin。まあその名の通り胸腺に対する抗体である。こいつらは胸腺に対応する抗体なのだが、さらに一歩深堀りすると、胸腺で作られるT細胞に対する抗体でもある。CD2,3,4,5,7,8といいた多くの表面光源と親和性があるらしく、CD4とCD8のことを思い出して貰えば、これらの抗原はT細胞の表面抗原であることがわかる。つまりATGはT細胞と結合するのだ。そして結合すると、補体依存的にT細胞を溶解させる。補体が必要という話はさておき、ATGはこうした機序の免疫抑制作用を持っているというわけだ。
そしてだ、どうしてこういった免疫抑制剤が、再生不良性貧血に効果を示すのだろうか?冒頭で、再生不良性貧血の病態は造血幹細胞の異常であると確認した。再生不良性貧血では一部の例外を除き、自己免疫が原因で造血幹細胞の障害が発生していると考えられている。そのため治療の基本が免疫抑制になっているのだ。
一部の例外
再生不良性貧血の原因は自己免疫であるという話をした。これは後天性の再生不良性貧血の話である。再生不良性貧血のほとんどは後天性であり、おおむね間違ってはいないのだが、例外がある。それが先天性の再生不良貧血、すなわちFanconi貧血である。詳しい発生機序は未だ不明ではあるが、先天性の遺伝子異常によって発症すること、多くは伴性劣性遺伝であることがわかっている。X染色体上に存在するDNA修復酵素遺伝子の変異による疾患であるようだ。
補足:ATGについて
ATGというのはなかなか耳にすることが少ない薬剤なんじゃないかと思う。免疫抑制作用を持っているため、拒絶反応の予防を目的として移植の際に用いられるという点は覚えておいても良いかもしれない。ちなみにATGは馬やウサギの抗体である。