原発性マクログロブリン血症

TL;DR

原因

原発性マクログロブリン血症はリンパ系の腫瘍であるが、どのリンパ球が増加しているか?と考えることは重要である。この疾患は多発性骨髄腫とよく似ていて、形質細胞(厳密にはちょっと違う)が増殖する。多発性骨髄腫と同様に、癌化した形質細胞はおかしな抗体である、M蛋白を産生する。ここでちょっと違うのが抗体の種類で、それが症状の違いにもつながってくる。原発性マクログロブリン血症では、IgM型のM蛋白が産生される。IgMは5量体を形成するため、他の抗体と比べると、サイズが大きくより血液をドロドロにする。

症状

原因がわかったので次は症状だ。多発性骨髄腫と比較するとわかりやすい。まずはM蛋白が血中に増えることによる過粘稠度症候群赤血球連銭形成は当然生じるし、多発性骨髄腫と比べても顕著である。血液があまりにもドロドロになるので、抹消まで血液が流れていかない。すると、抹消循環不全となり、頭痛やめまい、意識障害といったような神経症状も起きてくる。そしてなにより特徴的なのが眼症状だ。これは多発性骨髄腫ではあまりみられない。網膜の血管は非常に細く、5量体IgMのせいでドロドロになった血液が流れるのはかなり厳しい。そうなると根元の血管で血液が渋滞し、網膜静脈のソーセージ様怒張として観察される。当然こんな状況なので視力障害も生じる。もう一つ、結構ややこしいことだが、原発性マクログロブリン血症で上昇してくるM蛋白には温度が下がると凝集するという特性がある。この特徴をもつ免疫グロブリンのことをクリオグロブリンなんて呼んだりもするのだが、そのせいで、寒冷時には抹消循環不全が悪化する。これは免疫学の領域で頻出であるレイノー現象と全く同じ現象である。症状の一つとして重要である。

そして、最後は引き起こさない症状だ。多発性骨髄腫では骨破壊像が非常に特徴的だったが、原発性マクログロブリン血症ではそ骨所見は正常であることが多い。そもそも多発性骨髄腫で骨破壊が起きる原因は、形質細胞による骨芽細胞の抑制であった。原発性マクログロブリン血症の原因細胞は形質細胞だと述べたが、厳密にはちょっと違う。形質細胞みたいなやつなんだけどちょっと違う、形質細胞様リンパ球というやつだ。そういうわけで微妙に性質も異なっており、骨芽細胞の抑制あまり見られない

治療

症状が理解できたら治療していこう。原発性マクログロブリン血症も立派なリンパ系腫瘍なので、化学療法が中心となる。どの抗癌剤が効くかを覚えるのは難しいが頑張ろう。まず治療の選択に上がるのがアルキル化薬+副腎皮質ステロイドだ。アルキル化薬はDNAの二重鎖に架橋構造を作ることによって、DNAの複製を妨害する。シクロホスファミドメルファランなどが該当し、実際に使われる。残りの化学療法は、多発性骨髄腫と比較しよう。多発性骨髄腫に非常に有効であるボルテゾミブは原発性マクログロブリン血症にも結構効く。逆に多発性骨髄腫にはあまり効かなかったリツキシマブ、すなわち抗CD 20抗体は、原発性マクログロブリン血症ではそれなりの効果を発揮する。これも多発性骨髄腫と原発性マクログロブリン血症の原因細胞の微妙な違いに起因していると思われる。