多発性骨髄腫

TL;DR

原因

さてなにはともあれ原因からみていこう。個人的に血液の腫瘍は原因となる細胞をしっかりと理解することが大事だと思う。腫瘍の特性は基となった原因細胞の特性を受け継いでるものが多い。表面抗原はその代表例といえるはず。

多発性骨髄腫は、骨髄において形質細胞が単クローン性に増殖するリンパ系腫瘍である。もっと粗く表現すると、形質細胞が癌化することによって起きる疾患である。となると次に重要なのは形質細胞の特徴である。ざっくりいうと形質細胞はB細胞が成熟した細胞である。B細胞が液性免疫と深く関与し、抗体の産生を介して免疫系に寄与するということは有名だと思う。B細胞が種々の活性化を受け、実際に抗体を作れるようになると形質細胞と呼ばれるようになる。ハマチが大人になってブリって呼ばれるようになるのと一緒だ。

形質細胞はB細胞であり、リンパ球でもある。すなわち多発性骨髄腫はB細胞性の腫瘍でもあるしリンパ系の腫瘍でもある、ということになる。

病態

原因がわかれば病態や症状も見えてくる。形質細胞が増加するのだから、形質細胞によって作られるものも増加する。形質細胞は抗体を産生する細胞だった。つまり血中の抗体が増加する。ここで重要なのは増える抗体は正常ではない、ということだ。多発性骨髄腫は立派な悪性腫瘍であり、癌である。つまり増える形質細胞は癌細胞ということになる。そんな細胞が作る抗体がまともなわけはない。このおかしな抗体には名前が付けられていて、M蛋白と呼ばれる。

余談だがこのM蛋白のMが何を意味しているか知っているだろうか?僕は長年IgMのMかなとか思っていた。しかし多発性骨髄腫ではIgMが増加することはほとんどなく適切ではない。M蛋白は英語でMyeloma Proteinという。つまり骨髄腫の蛋白という意味になる。ほんとにそのまんまなわけだ。ちなみに骨髄腫以外にマクログロブリン血症でもM蛋白がみられるが、マクログロブリン血症(Macrogloblinemia)の頭文字もMなので問題ない。

抗体には、IgMやIgGといった様々な種類がある。同様にM蛋白にも種類がある。多発性骨髄腫で見られるM蛋白としてはIgG型IgA型がある。そして、尿中に出現し、診断の決め手となることで有名なベンス・ジョーンズ蛋白もM蛋白の一種である。このベンス・ジョーンズ蛋白は完全な抗体ではなく、抗体のかけらである(免疫グロブリン軽鎖)。

症状

次は症状だ。まず特徴的な症状として骨病変が挙げられる。骨髄腫は骨芽細胞をよくせいしてしまうので、造骨不全となる。そのため骨通骨折しやすくなるといった症状をきたす。頭蓋骨のX線をとってみると所々で骨の溶解が進み、穴が抜けているように見える。これがpunched out resionである。そして、骨が溶解するということは、骨に含まれているカルシウムが血中に溢れてくる。つまり高カルシウム血症もきたす。高カルシウム血症が原因となって起こる不定愁訴としては、倦怠感や悪心・嘔吐がある。

そして多発性骨髄腫は骨髄の腫瘍であるから、正常な骨髄の働きは抑制される。代表例は赤血球が作られなくなることによって起きる貧血だ。白血球と関わる易感染性や血小板と関わる出血傾向といった症状もなくはない。(メジャーではない)

最後は、M蛋白由来の症状だ。血中の蛋白が著しく増えるので腎臓に負担がかかる。腎障害は重要な所見の1つである。また血中に蛋白が溢れると血液がドロドロになってしまう過粘稠度症候群もきたす。

治療

治療も第一選択は重要である。多発性骨髄腫はリンパ系の腫瘍であり、化学療法でアプローチすることが多い。よく効く抗癌剤があるのでそれは覚えよう。ボルテゾミブというプロテアソーム阻害薬がめっちゃ効くらしい。プロテアソームというのは細胞内に存在するタンパク質を分解する酵素で、こいつの働きを止めると、細胞の中にはタンパク質が溢れてアポトーシスに至る。詳しい作用機序についは知識不足で解説できないが、NF-κβやIL-6の抑制も関わっているらしい。ちなみに一つの薬だけで治療を行うというよりは多剤併用療法が実施されることが多く、他の抗がん剤としては、レナリドミドなどが重要である。ちなみにサリドマイドが派生した薬剤です。

その他、造血幹細胞移植という手段もなくはない。最初の化学療法で十分な治療効果が得られなければ、大量化学療法+自家造血幹細胞移植という選択肢が取られる。

ちなみに、B細胞由来の腫瘍なので、抗CD 20抗体、すなわちリツキシマブが効くのでは?と思ったが、残念ながら有効なこともあるがCD20陰性例も多く、スタンダードではないようだ。結論、リツキシマブはあんまり効かない。

似たような疾患

多発性骨髄腫と似ている疾患にMGUS原発性マクログロブリン血症がある。

MGUSを略さず読むと、Monoclonal Gammopathy of Undetermined Significanceとなり、直訳すると重要性がわかっていない単クローン性のグロブリン異常症となる。ようするに、多発性骨髄腫の弱体化バージョンである。多発性骨髄腫と同様に形質細胞が増殖するが、症状は特にない。当然貧血や骨病変なんてものはありえない。こうした症状が見られるなら、それは多発性骨髄腫ということになる。ただMGUSは、多発性骨髄腫に移行する可能性がある。パワーアップするわけだ。そういうわけで経過観察は必須となる。

原発性マクログロブリン血症は多発性骨髄腫と同様にM蛋白が上昇する。やはり抗体の異常産生が見られるのだが、抗体の種類が違う。原発性マクログロブリン血症では、IgMが著明に増加する。IgGやベンス・ジョーンズ蛋白が増加する多発性骨髄腫とは対照的だ。ちなみにマクロは大きいという意味で、これは何が大きいかというとグロブリンすなわち抗体である。IgMは5量体を形成するため他の抗体と比べてかなりでかい。そういうわけでマクログロブリンという名前を冠している。

補足:CRABOについて

多発性骨髄腫の症状はCRABOと覚えるらしい。

C...カルシウムのCで、高Ca血症

R...腎臓(renal)のRで、腎機能障害

A...貧血は英語でAnemiaという。というわけで貧血

B...Boneで骨。骨病変のことを指している。

最後に残ったOOthersでその他の症状だそうです。CRABと過粘稠度症候群を覚えておけば十分そう。